監修:府中恵仁会病院

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内視鏡

どんな時に内視鏡検査するか

胃カメラ、大腸カメラと一般的に呼ばれています。正確にはカメラではなく、内視鏡と呼ばれます。
検診や開業医でもおなじみです。近年は小腸も内視鏡が登場したことにより(カプセル内視鏡、バルーン内視鏡) 、全消化管が観察できるようになりました。早期のものなら内視鏡で治療できます。

写真 (図1) は早期胃癌ですが、早期に見つかったため、内視鏡で治療できました。
また、大腸ポリープも、内視鏡で取ることができます (図2)

以下、お腹の症状別にみて行きましょう。

①胸焼け、酸っぱいものが上がる。逆流性食道炎です (図3)
 プロトンポンプ阻害薬(PPI)という、胃酸を強力に抑える薬や、
 胃腸の動きを活発にする薬でよくなります。

②みぞおちの痛み
 胃潰瘍 (図4) :典型例ではご飯を食べると痛くなります。
 十二指腸潰瘍 (図5) :胃潰瘍とは逆に、ご飯を食べると症状は軽快しま す。
 
 潰瘍は出血や、穿孔(穴が空く)していなければ、基本的にPPIや
 H2受容体拮抗薬(H2RA)で治療していきます。

 他に,みぞおちの痛みには、胆石発作(脂っこいものを食べてから3時間 後くらいに痛くなる)、急性胆嚢炎、急性胆管炎、急性膵炎、膵癌などがあ ります。病状により、緊急に入院治療が必要な場合があります。

③吐血,下血(げけつ【注1】)、上部消化管出血です。
 胃潰瘍 (図4) 、十二指腸潰瘍 (図5) 、食道胃静脈瘤、胃がん (図6)
 マロリーワイス症候群【注2】などを考えます。

 吐血、下血は緊急内視鏡が必要です。様子をみないで病院の受診が必 要です。

④血便【注1】。下部消化管出血です。
 虚血性腸炎 (図7) 、大腸憩室出血 (図8) 、感染性腸炎、大腸がん、潰瘍性大腸炎などを考えます。
 痔ということもありえます。すぐ病院に受診してください。
 基本的に大腸内視鏡は必要ですが、いつ行うかは診察後担当医が判断します。

【注1】
吐血:上部消化管(主に食道・胃・十二指腸)からの出血吐物を嘔吐することで、色は真っ赤から、胃液や胆汁が混じった、赤茶色、コーヒーのような色(これは出血して少し時間がたった可能性あり)です。

下血:上部消化管出血です。真っ黒な色の便のことで、墨汁や、イカスミの色です。タール便(木タールの色が真っ黒だから)ともいわれます。上部消化管からの出血は便になるまで時間がかかり、黒くなります。真っ黒ではなく、焦げ茶程度はハズレです。

血便:下部消化管出血真っ赤な便です。下部消化管(大腸,時には回腸)からの出血を疑います。ただし少し時間が経つと徐々に黒っぽくなり、赤黒い色(暗赤色)となると、上部からか下部からか判断が難しい場合があります。

【注2】
マロリー・ワイス症候群:特に飲酒後に嘔吐を繰り返しているときに吐血した時に疑います。嘔吐によりお腹の圧がかかり,胃の入り口が縦に裂けることから出血します。ほとんどの場合自然に止血されますが、出血が止まらないなどの場合もあります。お話だけでだいたい見当はつきますが、確定診断には内視鏡が必要です。

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がんにかからないために

厚生労働省 人口動態統計月報年計(概数)の概況によると主な死因別にみた死亡率は、悪性新生物=がんが増加していることがわかります (グラフ1)

その内訳を見ると、肺がん、大腸がんが増加傾向で、胃がんについては横ばいですが依然として多い水準であることがわかります (グラフ2)

ここでは適切な内視鏡検診で早期発見できれば治癒が期待できる食道がん、胃がん、大腸がんについて考えたいと思います。

まず検診を考える前にがんの予防を考えます。
がん予防には、
①まずがんにかからないようにする=1次予防
②がんを早期に発見・治療する=2次予防
③がんによる機能低下防止から社会復帰する=3次予防 にわかれます。
ここでは上記①②を考えましょう。

▼ 1 次 予 防

(以下、がん予防法の開発に関する研究。2011年2月。厚生労働科学研究費補助金(第三次対がん総合戦略研究事業)、(世界癌研究基金/米国癌研究協会WCRF/AICR 2007)を参考に記載しています。)

◆食道がん

喫煙、飲酒(ほぼ確実)、マテ茶【注3】も可能性として指摘されています。
私が担当した食道がんの方はほぼ全員、長年飲酒、タバコをやっておられました。

◆胃がん

ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)菌感染
(表1)H.pylori 除菌の有無によって胃癌発生に差があるかをみた前向き介入試験で、除菌により
胃癌発生が有意差を持って抑えられるという結果です。
ただ、ここで強調しておきたいのは、除菌しても胃がんになる方がいる、ということです。
(=ピロリ菌がいなくなったから胃がんにならない、ということではありません。)

日本ヘリコバクター学会“H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン2009改訂版”では、H. pylori 除菌治療の適応としてH. pylori 感染症を(推奨度A)、つまり、「強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる」としています。

食塩
国際的にも食塩及び高塩分食品は胃がんのリスクを上げることが"ほぼ確実"とされています。

◆大腸がん

飲酒(ほぼ確実) (WCRF/AICR 2007)。
ハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉や赤肉(牛・豚・羊など。鶏肉・魚は含まない)は大腸がんのリスクを上げることが"確実"と評価されました。赤肉や加工肉は鶏肉などに比べて動物性脂肪含有量が高く、がんの発生にかかわる化合物や成分も含むことが知られています。
(WCRF/AICR 2007)

野菜と果物
口腔、咽頭、喉頭、食道、胃、及び肺(果物のみ)のがんにそれぞれ予防的に働くことは"ほぼ確実"。
なお、この場合の野菜には穀物やイモ類は含まない(WCRF/AICR 2007)。

運動
大腸がんのリスクを下げることは確実(WCRF/AICR 2007)。

健康食品
野菜ジュースはどうでしょうか。残念ですが、野菜をとったことにはなりません。
そもそも、1日分の野菜(350g)がコップ1杯に収まるわけがありません。

また、最近はいろいろな健康食品が出てきています。
健康食品については、独立行政法人 国立健康・栄養研究所ホームページに詳しく記載されています。


▼ 2 次 予 防

◆食道がん

上記にも記したように飲酒、喫煙がリスクで、とくに飲酒時に顔が赤くなる方は食道がんの高危険群です。
これは体質的にアルコールを代謝する過程で生成されるアセトアルデヒドの代謝能が低い人です。
食道がんの早期は症状がないため、内視鏡を受ける必要があります。
ただし集団検診で行う胃透視では早期の食道がんの発見は難しいです。内視鏡を薦めます。
食道癌の好発年齢は60-70歳代の高齢者層です。

以上より、60歳以上の高齢者で、飲酒、喫煙をかなりやっていて、飲酒時に顔が赤くなる方は積極的に
内視鏡検診を受けたほうが良いでしょう。

◆胃がん

ヘリコバクター・ピロリ菌は胃潰瘍、十二指腸潰瘍だけではなく胃がんとの強い関連が指摘されています。
胃がんリスク検診=ABC検診について紹介しましょう。

まずその前にペプシノーゲン(PG)について説明します。
我々が食べたものは胃の中で胃酸で溶かされますが、胃酸だけではなく、ペプシンという消化酵素も
働いています。ペプシンはペプシノーゲン(PG)が変換されてできたものです。
PGの約1%は組織間中にも分泌され、血中に入るため、採血でPGとして測定することができます。
このPGはPGⅠとPGⅡに分けられます (図9)


ヒトでは、この血清PGⅠ/Ⅱ比の低下が、胃の萎縮の進展と相関するため、臨床的に胃癌の高度危険群のスクリーニングに用いられています。

ABC検診を紹介します。
ABC検診とは、H.pylori 感染の有無と血清ペプシノーゲン(PG)法の陽性、陰性により、
A,B,C,Dに分類する方法です。

H.pylori 感染は採血で血清抗H.pylori 抗体IgGで測定し、PG法はPGⅠ70μg/L以下、かつPGⅠ/Ⅱ比が
3.0以下である時にPG法陽性とする方法で、PG法陽性者は胃癌高危険群である進展した萎縮性胃炎で
あります。

このABCD群のdataでは、10年間のコホート研究で年率胃癌発生リスクはA群0%、B群0.1%、C群0.2%、D群1.25% (表2) であり、リスクに応じて対象を集約して内視鏡を行うことにより、胃がん検診を効率的に行うのが目的です。つまり、A群は検診の対象から外し、高危険群C,D群について内視鏡を効率的にすすめることが大事です。

また、まえにも記載しましたが、除菌してもがんになる方はいます。特に、萎縮がある程度すすんでしまっている場合は注意が必要です。

◆大腸がん

真っ先に思い浮かぶのが便潜血反応でしょう。
40歳以上になったら、市から便潜血の案内が来ると思います。便潜血で陽性になったら、必ず大腸内視鏡を受けましょう。

【注3】
「南米で非常な高温で飲まれる習慣のあるマテ茶が食道のがんのリスクを上げることは" ほぼ確実"
であると指摘されています。また、口腔、咽頭、喉頭のがんについても、" 限定的" ではありますが、
リスクを上げるとする研究結果が見られます。」(WCRF/AICR 2007記載)

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胃潰瘍・十二指腸潰瘍について

◆潰瘍の治療

①薬物治療
胃潰瘍 : 治療にはプロトンポンプ阻害薬(PPI)、あるいはH2受容体拮抗薬(H2RA)をもちいます。
いずれも強力な酸分泌抑制薬です。また、防御因子増強薬というものがあります。医師から粘膜保護薬とかいわれるものです。よくロキソプロフェン(ロキソニン®)【注4】と一緒に処方されるようなものです。
これはおもに併用薬として用いられます。しかしPPIとの併用効果は示されていません。
防御因子増強薬は奥深いものがあります。詳しくは示しませんが、近年、わが国では小腸分野でめざましくdataが出てきています。防御因子増強薬は消化管全体に作用するのですね。

胃・十二指腸潰瘍薬の最強はPPIです。H2RAよりも潰瘍治癒率が良いのがはっきりしています。
ただしH2RAで治らないかというとそうではないです。十分治ります。ただし、一部の難治性潰瘍があり、これにはPPIを積極的に投与します。保険診療上、胃潰瘍8週間、十二指腸潰瘍6週間までです。その後途中でH2RAに変えたり、防御因子増強薬にしたり、ケースバイケースです。

グラフはピロリ菌を発見した、マーシャル先生がかなり前に発表したものです。
(グラフ3)によると胃潰瘍の70%、十二指腸潰瘍の90%がピロリ菌に関連しているとわかります。

②除菌療法
除菌の保険適用疾患は、以下の疾患です。
それ以外で除菌を希望される場合は自費での検査、除菌、除菌判定となります。
・慢性胃炎
・胃潰瘍
・十二指腸潰瘍
・胃MALTリンパ腫
・特発性血小板減少性紫斑病
・早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃

1) 一次除菌療法
レジメはプロトンポンプ阻害薬(PPI)+アモキシシリン(AMPC)+クラリスロマイシン(CAM)の3剤併用療法で7日間投与です。 PPIはいずれを用いても除菌率に差はありません。また、CAMは400mgと800mgの用量の違いによる除菌率の差はみられません。除菌率は年々低下傾向で、私は患者さんに60-70%くらいですよ、とお話しています。

1次除菌の副作用は10-40%前後と報告されています。軽度の下痢、軟便がもっとも多く10~30%、
味覚異常、舌炎、口内炎が5~15%,2~5%に治療中止となるような強い副作用が発生しています
(下痢、発熱、発疹、喉頭浮腫、出血性腸炎)。特に血便が生じた場合はすぐ来院することが必要です。

2) 二次除菌療法
一次除菌不成功の最大の原因はCAM耐性株の存在であるため、二次除菌レジメはCAMをMNZに変更を加えたPPI+AMPC+MNZ(PPI/AM療法)の3剤併用療法が検討され、除菌率は90%前後です。このPPI/AM療法は1次除菌が不成功時にのみ使用可能です。一次除菌においてCAM耐性菌の増加がみられたため、二次除菌でもMNZ耐性株の増加が懸念されるところです。

特に海外ではMNZ耐性菌の頻度が高いことが指摘されていますが、わが国でのMNZの1次耐性率は4~5%となっており、耐性率の増加はみられていません。副作用は主なものは下痢で、軽度なものが多く重篤なものは少ないです。ジスルフィラム作用【注5】があり、PPI/AM療法中の飲酒はさける必要があります。

NSAID(非ステロイド抗炎症薬)について
最近薬局で売られるようになった、ロキソプロフェン(ロキソニン®)や、ジクロフェナク(ボルタレン®)などはNSAID(非ステロイド抗炎症薬)と呼ばれるものです。
主に痛み止めに使用され、腰痛や、骨折、頭痛などの領域で使用されることが多くなって来ました。
問題はNSAIDが胃腸に悪いということです。NSAIDにより引き起こされる潰瘍をNSAID潰瘍と呼ばれます。
治療は粘膜防御因子製剤ではミソプロストール(サイトテック®)、PPIが有効です。

H.pylori 除菌療法は、NSAID投与前や中止後なら有効ですが、継続投与されている場合は無効どころか
潰瘍を悪化させる場合があるため、除菌はすすめられません。

脳梗塞や心筋梗塞の患者さんに、低容量アスピリン製剤(LDA)が投与される場合があります。商品名で言うとバイアスピリン®やバファリン配合錠A81®というものですが、これらも胃腸を痛めることがわかっています。これらが原因の潰瘍をアスピリン潰瘍と呼ばれています。LDAはわかりやすくいうと、血小板が固まりにくく作用があることから、潰瘍ができやすいだけではなく出血の危険性が高まります。1次予防にはPPIの一部が保険適用されています(エソメプラゾール [ネキシウム®]10mgあるいは20mg[1日量]、ランソプラゾール [タケプロン®]15mg[1日量])。日本では保険適用外ですが、2009年にはファモチジン40mg(1日量)が有効であるとの海外の論文が発表されました。治療にはPPIを用い、一度潰瘍、出血をきたした場合、または再発予防には、PPI、H.pylori 除菌が勧められます。

近年は脳梗塞や心筋梗塞領域でどんどんいい薬が開発されています。古くから使われているワルファリン(ワーファリン®)の他、最近出たクロピドグレル(プラビックス®)など、それぞれはいい薬ですが、一度潰瘍から出血すると出血が止まりにくくなる危険性があります。

ここで症例をお示しいたします。
心臓系の病気でLDAとプラビックス®を、片頭痛でNSAIDも飲んでいた方です。PPIも一緒に処方されていました。しかし、吐下血【注2】で救急車来院され、来院時の血圧が70/-mmHg台とショックのため、輸液、輸血のオーダーしながら緊急内視鏡を施行いたしました。胃内に数カ所潰瘍が認められます。これはアスピリン(+NSAID)潰瘍といえます。その内の1つより出血を確認しました (図10) 。クリップというもので止血を試みますが薬物のためか、クリップの足からじわじわ出血持続するためAPC(レーザー)で焼灼し止血を確認しました。H.pylori 除菌が進み、特に胃潰瘍の方の場合、原因に占めるLDA、NSAIDの割合は増加している気がいたします。

【注4】 ®:右肩に®がつくのは販売名です。つかないのは薬品名です。
【注5】ジスルフィラム
慢性アルコール中毒に対する抗酒療法としてノックビン®という薬があります。
飲酒したアルコールは肝臓で代謝されますが、代謝過程を阻害することにより、血中アセトアルデヒド濃度を上昇させ、顔面潮紅、熱感、頭痛、悪心、嘔吐などの急性症状を発現させ、お酒を嫌いにさせる嫌酒薬のことです。

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PTP誤嚥しないために

最近高齢者が増加したことと関連があると思われますが、高齢者で薬のパッケージ(PTPシート)を誤嚥するケースが相次いでいます。 PTPシートは薬を1錠ずつに切り離せない構造が主流となっていますが、携帯時などに消費者がハサミで1錠分に切り離してしまい、これが誤飲しやすいサイズであるため事故につながる、など国民生活センターは分析し、対策として

• PTP包装には誤飲防止のために横か縦の一方向にのみミシン目が入っているので、
 1錠ずつに切らない
• 高齢者の事故が目立つので、家族など周りにいる人も気を配る
• PTP包装を飲み込んだかもしれないと思ったら、ただちに診察を受ける
• 1回分ずつの薬を袋にまとめて入れる「一包化」を活用する


以上のように分析しています。
このページをご覧になられている皆様方、ご家族の健康と、PTPシート誤飲の予防を切に願います。

監修
  • 医療法人社団恵仁会 府中恵仁会病院
  • 医療法人社団恵仁会 366リハビリテーション病院
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