子宮筋腫とは子宮にできる平滑筋腫をいいます。
筋肉は横紋筋と平滑筋からなっており、運動にかかわる手足の筋肉や心臓の筋肉が横紋筋、胃や食道、
内臓の筋肉は平滑筋です。
この平滑筋から出た良性の腫瘍を平滑筋腫とよんでいます。
子宮の筋肉は平滑筋からできています。子宮筋腫は人にできる腫瘍の中で最も頻度が高く、
30歳以上の女性であれば三人に一人は持っています。子宮筋腫が発生する原因は良く判っていませんが遺伝子が関与していると考えられています。
女性ホルモンであるエストロゲンが子宮筋腫の増大をうながします。
したがってエストロゲンが低下する閉経期以降は子宮筋腫は縮小し、月経そのものがなくなりますから
治療は不要です。
発生頻度には人種差があり、最も多いのがアメリカに住んでいる黒人です。
次に白人、東洋人の頻度です。食生活によって筋腫ができやすくなるということは証明されていません。
例えば乳製品を多く摂ることにより筋腫は発生しやすくなるということはなく、むしろ乳製品を多く取る人たちには筋腫の発生頻度は低かったという報告があるほどです。
またストレスや免疫が子宮筋腫発生に関与するというエビデンスもありません。
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子宮筋腫があっても無症状の場合が多く、子宮筋腫の症状である、
1) 過多月経、過長月経、貧血
2) 月経痛、下腹部痛
3) 頻尿、便秘などの圧迫症状
4) 腹部のしこり
を来たすのは10~20%です。
したがって症状のない80~90%の人にはすぐ治療が必要ではなく経過を診るということになります。
ただし径6cmを超える筋腫がある場合には何らかの治療が必要といわれています。
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子宮筋腫の診断には、
1) 内診、2) 超音波、3) MRI、が行われます。
子宮筋腫によると思われる症状があれば内診だけで子宮筋腫と診断できる場合もありますが
超音波検査をすればより診断が可能です。
CTスキャンが行われる場合もありますが、被曝を伴うので子宮筋腫を疑ったときの検査としては
ふさわしくありません。
MRIでは客観的に筋腫の大きさ、個数、局在(子宮のどの部分にできているか)、
筋腫の変性の程度を診断することができます。
最終的な診断は組織病理によります。
この場合、摘出しなくてはなりませんから手術を行っていない子宮筋腫はあくまで“子宮筋腫であると思われる子宮の腫瘍”ということになります。
血液データ、超音波、MRIなどの検査から子宮筋腫と診断されても1/2000の確率で子宮肉腫があると
いわれています。
特に
1) 閉経期に近いのに急速に増大する、2) MRIで典型的な筋腫ではなく変性の程度が著明、
3) LDHという血液中の酵素の値が高い、場合には良性の子宮筋腫ではなく悪性の子宮肉腫を考慮し
なるべく早急に手術を勧めます。
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子宮筋腫の治療には、
1) 子宮全摘術
2) 筋腫核出術
3) 薬物療法(GnRHa療法など)
4) 子宮動脈塞栓術
5) 集束超音波療法(FUS)
があります。
このうち最も確実なのは子宮全摘術で再発はありません。
最近は腹腔鏡を利用して子宮全摘術を行うことも可能となってきました。
筋腫核出術は外科的に筋腫だけを切除、摘出する方法で腹腔鏡下、子宮鏡下でも可能な場合があります。ただし子宮頸部という場所にできた筋腫は核出が極めて難しくこの場合子宮全摘術も熟練を要します。
症状緩和のための鎮痛剤や貧血に対する鉄剤の他、ホルモン療法(GnRHa)があります。
これは人工的にエストロゲンの低下を起こし閉経状態にするものです。
GnRHa療法中は月経が停止し、子宮筋腫も縮小しますが、やめると元に戻ります。
また治療中は骨のカルシウムが減少し、動脈硬化、コレステロールの上昇が起きますので半年以上
継続して行わないようになっています。
手術前に筋腫を縮小させて手術がやり易くなる場合、閉経が近いと判断されて閉経までの逃げ込み療法
として行われるのが一般的です。
また低用量ピルも子宮筋腫による過多月経の治療に使用されることがありますが、低用量ピルにはエストロゲンが含まれていますので過多月経などの症状は改善しても子宮筋腫は増大することもあります。
カテーテルを使用して子宮筋腫に栄養を送っている動脈を閉塞させる治療法で1990年代に欧米で始まった新しい治療法です。筋腫の個数、場所にかかわらず施術が可能で術後の回復が早く、腹部に傷跡が残らないのが利点です。
また腹腔内での操作がありませんので、開腹手術、腹腔鏡手術にできる癒着はできにくいという利点もあります。子宮動脈塞栓術はエックス線透視を利用して行うため微量ですが放射線被曝が伴いますので手技には熟練が要求されます。
妊娠・出産を希望する場合は筋腫核出術を第一に選択すべきと言われていましたが子宮動脈塞栓術後の妊娠・出産例は増加傾向にあり、最近のヨーロッパからの報告によると筋腫核出術と比較しても遜色ない成績が出されています。
約200本の細かい超音波ビームを子宮筋腫に当てて焼く方法です。
この方法も術後回復が早いのが利点です。ただし超音波の性質上、空気や石灰化があると超音波の方向が変わってしまうので腸の空気や筋腫の石灰化などがあると正確に施行できなくなります。
また大きな筋腫、多発する筋腫、骨盤の後ろ側にある筋腫は適応になりません。
以上のように子宮筋腫に対する治療法の選択枝はいくつかあり特に子宮動脈塞栓術、集束超音波療法は限られた施設でしか行われておらず現在保険の適応になっていないので専門の施設に問い合わせてみるのがいいと思われます。
子宮筋腫は良性といっても腫瘍です。
子宮筋腫と診断されても決して自宅で一人で治そうと思わないことです。
また子宮筋腫かなと思ったらかならず医療機関を受診して下さい。